スイッチング電源市場は儲かる市場なのか?

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電源は最終製品の部品構成の中では単品としては最も高い部類に属し、コストダウン要求の対象製品になりやすいのです。これは標準電源もカスタム電源(特注電源)も同じです。違うのはカスタム電源のユーザーはもともと電源を設計する人材があり、パワー不足のため外注に出していることが多いのです。そのため電源のコスト構造も把握しているためなかなか電源メーカー側が希望する利益を出せず儲からない市場です。

それに対して標準電源はどうでしょうか?
一般的にメーカーの場合、市場シェアを40%獲得すれば価格形成力(価格リーダーシップ)を持つと言われています。つまり市場シェア40%を持つメーカーが市場価格を決めることができるのです。

国内の標準電源のシェアはコーセル35%、TDKラムダ30%と言われていますのでほぼこの2社で標準電源の価格が決められています。

スイッチング電源メーカーの利益率

スイッチング電源標準メーカーの利益率はどれくらいでしょうか?ここでは売上高利益率と営業利益率を見ることにします。コーセルの2019年5月期の有価証券報告書には連結売上279億円、売上高利益率31.6%です。電機メーカーの売上高利益率の平均は20.9%ですのでかなりいい数字です。

コーセルは30%という利益率基準があり売上や市場シェアよりも利益率を重視しています。ただし30%も利益が取れる市場は飽和していますので、カスタム電源を標準電源市場へ取り込む”新製品”を開発し、従来カスタム電源を使っていたユーザーを新しいユーザーとして獲得しようとしています。

出典:StockclipさんのHP

 

一方、TDKラムダは非上場ですので情報公開はしていません。電気回路や搭載している部品はコーセル製とほぼ同じで工場が海外(中国、マレーシア)の違いだけですので連結ベースではコーセルとほぼ同じレベル、30%前後だと思われます。どちらにしても電気機器メーカーで売上利益率が30%というのは優秀です。そういう意味では標準電源市場は儲かる市場だと言えます。

アナログ設計の強み

一般的に高収益メーカーは他社にない技術力や特許を持っていますが、スイッチング電源は汎用の電子部品を基板上にアッセンブリしているにすぎないアナログの塊です。数年前に「デジタル電源」が話題になりましたが本当の意味でのデジタル電源ではなく制御の一部をデジタル化しただけのことです。スイッチング電源はアナログの「ローテク製品」だからこそ稼げる秘密があります。

アナログ技術は経験値がものを言います。電機・電子専攻した理系の技術者はデジタル設計がほとんどで電源を設計できる「アナログ技術者」はほとんどいません。一人前に電源を設計できるようになるには少なくとも20年以上かかる熟練の世界です。

電源設計のアナログ技術は回路設計とその回路に最適な部品の選定と配置につきます。回路設計自体はそれほど難しいわけでありませんが「熱」と「ノイズ」をどこまで抑え込めるかが一番のポイントになります。基板の温度は100℃以上になりますので基板上の電子部品が熱による信頼性低下を避けるための熱対策をします。最近はパソコン上でシュミレーションしておおよその検討をつけますが、最終的には部品を付け替えて実験を繰り返すという「カットアンドトライ」しか方法がありません。実際実験をすると予想と逆の結果になったり、その原因を調べていくうちに他に間違いを発見したりなどとにかく慣れないうちは時間がかかります。これらを解決するのは長年のノウハウや経験がものを言います。属人的な経験やノウハウのアナログ技術が電源メーカーの強みとなっているのです。

こういったことを電機メーカーや装置メーカーが社内で電源設計部隊を持つのは非効率です。確かに電源を内製化(カスタム化)することで製品の特徴を出しやすくなりますが、装置を開発するごとに電源を開発していたのでは時間がかかりすぎます。肝心の装置を市場に出すタイミングが遅れ競合メーカーに負けてしまいます。装置メーカーは電源は標準電源から選定することで本来の装置の設計に技術者を振り分けることもできます。

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量産品に採用される意味

また、標準電源にはもう一つの特徴があります。サイプルや試作で1回限りの発注もありますが、毎月一定数発注される「量産品」の装置や機械に搭載されることが多いのです。つまり毎月の発注額は少なくても毎年、10年、20年と継続性があります。また、一度発注されると不具合や納期遅れなどのトラブルがない限り「手離れのいい商品」になります。例えば、毎月5万円の売り上げであっても年間で60万円、10年で600万円、20年で1200万円になります。10年以上同じ電源を使うことは普通ですし、その間に他の新製品の装置にも搭載されていきます。

また、標準電源を搭載する産業用装置や機器は民生品に比べてそのライフサイクルが圧倒的に長いです。民生品だと1、2年のところ10年や20年も珍しくありません。つまり一度採用されると5年10年は売れ続ける製品は産業用向け製品の特徴です。

 

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