電気を専門に習ったことのない文化系の人にとって、スイッチング電源の回路を勉強しようと思って入門書を読んでもよくわかりません。現物の電源回路も新しい電子部品を採用していることもあり技術書の説明と異なります。
身近にあったTDKラムダ「ZWS100B-5」でスイッチング電源の回路を説明しようと思います。電源の回路図がないので完全ではありませんが、現物から大まかなスイッチング電源のブロック単位の動作は理解できるのではないでしょうか。これくらいわかれば技術者と話はできます。
スイッチング電源の回路
ZWS100B-5の写真をとりました。
ざっと回路の説明すると「電源の左端の入力コネクタから入力、①フィルタ回路と②突入電流防止回路を経由し③整流・平滑した電流を④スイッチングしトランスに送ります。トランスでは降圧した電圧をさらに⑤整流・平滑して出力します。」これが大まかなこの回路の流れです。
もう少し詳しく見てみます。
フィルタ回路
入力後、まずフィルムキャパシタ(フィルムコンデンサ)とコイルで構成されるフィルタ回路に入ります。フィルムキャパシタは写真の黒いケースの部品で、内部の電極間にはプラスチックフィルムの誘電体を挟んだコンデンサになっています。
フィルタ回路の役割は外部から入ってくるノイズを抑えたり、電源側から入力側へ出ていくノイズ(雑音端子電圧)を抑えます。特に雑音端子電圧は重要で他の機器や装置に誤動作などの悪影響を及ぼすことがあり国際規格があります。コイルはコモンモードチョークコイルといいます。
フィルムキャパシタの横に黒い部品のサージアブソーバー(バリスタ)があります。サージアブソーバーは雷などのサージ電圧から電子機器を保護する部品です。電圧によって抵抗値が変化する特性があるので、静電気からICなどの素子を保護したり雷サージから電子機器を保護することができます。
仕組みはサージアブソーバーに高電圧がかかると抵抗値が下がりサージアブソーバーに電流が流れます。電流が流れると回路の抵抗値が下がり電圧降下します。その結果、ICなどの電子部品にかかる電圧を低くすることができます。
突入電流防止回路
フィルタ回路の後に5Aのヒューズがついていました。このガラス管ヒューズは値段も安いので電子回路の部品としてよく使われていています。外から見てヒューズが切れているのが確認できるのですが、このタイプはガラス管が破損時に破片が周囲に飛び散らないように保護シールを巻いています。
ヒューズが切れるとヒューズを交換しますが、スイッチング電源の場合はヒューズ断は一次原因のことが少なく、周辺の部品が故障したことにより引き起こされる二次的な断線がほとんどです。周辺部品も壊れていますのでヒューズ交換だけですみません。
電解コンデンサが回路上にあると突入電流が流れます。サージ電流が流れるとヒューズが切れたり電解コンデンサに負荷がかかり寿命が短くなったりします。その突入電流をサーミスタで抑えることができます。上の写真のペンで指したグレーの部品がそのサーミスタです。NTCサーミスタと呼んだりもします。
サーミスタの特性は上図のように温度が低い時は抵抗値が高く、温度が上がると瞬時に抵抗値が下がり0Ωにまでなります。(サージアブソーバーは電圧で抵抗値が変化しますが、サーミスタは温度で抵抗値が変化します。)
サーミスタは電源投入時の温度が低い時は抵抗の役割を果たし、電流が流れ出すと抵抗値が下がり抵抗がないのとほぼ同じ状態になります。固定抵抗を使用した場合は常時熱損失が発生しますが、サーミスタは熱損失がほぼなくなり効率が上がります。
整流・平滑回路
突入電流防止回路の後は整流・平滑回路になります。上の写真の4本足の部品がブリッジダイオードで、高温になるためアルミの黒いフィンに放熱しています。アルミのフィンは大きければ放熱効果も大きいのですが、コストと形状面で出来るだけフィンを小さくするために効率のいい(熱損失が小さい)部品を選びます。
ブリッジダイオードの役割は交流電圧ACを直流電圧DCに変換することです。直流といっても交流のマイナスの部分を上に倒しただけの全波整流です。
ブリッジダイオードで整流したあとは電解コンデンサで平滑します。この電源では250V180μFの電解コンデンサが4本使っていおり、全波整流された電圧波形をできるだけ真っ直ぐな直流に平滑します。入力がAC100Vの場合の交流電圧波形はピーク141Vをピークとするサイン波ですが、電解コンデンサで平滑した後の出力電圧はDC141Vになっています。
また電解コンデンサは電力を溜めたり放出したりしますので、入力電圧が低下しても20mSは出力電圧を保持することができます。ZWS100Bー5のデータを見ると負荷が20%であれば10倍の200mS(0.2S)も保持時間をとることができます。
トランスで降圧
電解コンデンサを通った直流電流はMOSFETと変圧器(トランス)に行きます。トランスは高い電圧から低い電圧へ変換(降圧)することができます。トランスの一次側にあるMOSFETがON/OFF(スイッチング)することでトランスの一次側に流れる電流が流れたり止まったりして電圧を調整します。電流が変化することでトランスの一次側の鉄芯に磁束が発生しその向きも変化します。これによりトランスの二次側に一次側と反対の向きの磁束と同時に電圧が発生します。一次側の電圧と二次側の電圧はそれぞれトランスの巻き数比に比例します。
トランスは電圧を変圧する以外にも電気的に絶縁をする役目があります。基板裏面を見るとトランスの一次側二次側との間には1cmほどの隙間がありここには何も回路がありません。
トランスの二次側にMOSFETがあり整流用として2並列で使用されています。その後の電解コンデンサでは整流された電圧を平滑化しています。
その先にはチョークコイル(インダクタ)があり出力コネクタへ繋がっています。