電源のラインドロップ
ラインドロップは「電圧降下」という意味です。電源のラインドロップとは電源の出力端より負荷端側では電圧が下がることです。電源と負荷をつなぐ電線には抵抗値がありそこで電圧が発生するために負荷端の電圧は下がります。
ラインドロップの基本の考え方
上記図の電源と負荷(抵抗)が電線でつながれている場合、各部分の電圧の関係は以下のようになります。
*E1とE3は基本は同じです。
電源の出力電圧E0が24V、電線にかかる電圧E1とE3が共に1Vだとすると負荷抵抗にかかる電圧E2は
E2=E0-E1-E3=24V-1V-1V=22Vになります。
線材にかかる電圧E1(E3)はV=IRから線材に流れる電流値I(A)に線材の抵抗値R(Ω)をかければいいのでE1(V)=I(A)☓R(Ω)です。
抵抗値の計算方法
では、実際に線材の抵抗値を調べて負荷端電圧を計算してみます。
電源電圧E0=24V、電流値I=1A、線材の長さL=1mとします。
線材の抵抗値R(Ω)=線材の長さL(m)☓線材の1mあたりの抵抗値re(Ω/m)です。
re抵抗値はケーブルメーカーのHPに載っています。メーカーによりre値は異なります。
(東日京三電線のHPから)
AWG20のreは37.1(Ω/km)ですが、単位kmをmに換算するとre=0.0371(Ω/m)です。
AWG20の1mの抵抗値はL☓re=1m☓0.0371Ω/m=0.0371Ω
この線材にかかる電圧はV=IRですので、電流は1AですのでE1=1A☓0.0371Ω=0.0371Vです。
負荷端電圧E2=E0-E1-E2=24V-0.0371V-0.0371V=23.9258V
つまり0.0371V☓2=0.0742Vが電圧ドロップします。
線材長の計算方法
次はラインドロップを抑えるために電源から負荷までの線材長をどれくらいまでにすべきかを計算します。
例として24V5A出力の電源でAWG20の線材を使って負荷までつなぎ、負荷端電圧は最低23V、つまり-1Vまで電圧ドロップを抑えるとします。
実は電源には温度条件や負荷変動の外部環境により出力電圧が変動します(総合変動)。仕様書では±1%ですので±0.024Vは電圧変動しますが、今回はわかりやすく総合変動分は考慮しないで計算します。
負荷までの電圧ドロップが1Vということは線材それぞれに0.5Vの電圧がかかることになります。AWG20の抵抗率re=0.0371Ω/mですから、V=IR=I(L☓re)から
0.5V=5A☓R=5A☓(L☓0.0371Ω/m)
L=2.70m
つまり線材長を2.7m以下にすればいいことになります。
線材径の選定方法
また電源と負荷までの線材長が1mだとしてどの太さの線材(AWG)を使うべきかを計算してみます。
条件は上と同じで、電源は24V5A出力で負荷端電圧を23V(-1V)に抑える場合どの線材を選ぶべきとします。
V=IRから
0.5V=5A☓R=5A(L☓re)=5A(1m☓re)となります。
re=0.1Ω/m=100Ω/kmです。AWGの一覧表からAWG24(許容電流5A)が88.7Ω/kmですのでAWG24より太い線材を選べばいいことになります。
線材の選定方法
線材を選定するときに注意することがあります。
- 線材の使用電圧には使用できる最高電圧の規定があります。この電圧を超えて使用すると線材被覆が絶縁劣化する恐れがあります。
- 使用電流
線材に電流を流すと線材の温度が上昇し、温度が高くなるほど流す電流に制限がでてきます。電流値は線材の種類によって規定されています。 - 線材の電気抵抗値
線材の電気抵抗値は一般にΩ/kmで表され、1km当たりの抵抗値で規定されています。実際に抵抗値を計算するときの単位はΩ/mが多いので気をつける必要があります。
ラインドロップを考慮した設計とは
電源から負荷までの配線はラインドロップをできるだけ小さく抑えるために、線材は太く・短くします。電圧降下が大きくなればなるほど以下のデメリットがあります。
- 電圧ドロップは電流値に比例して大きくなります。つまり線材に流れる電流値が大きくなると負荷端の電圧降下が大きくなり、負荷装置の停止や誤動作の原因になります。
- ラインドロップが大きい配線では線材の温度上昇や高い電圧がかかることから絶縁被覆の劣化が進みます。
- ラインドロップを補正するために電源の出力電圧をその分だけ高く出力する必要があります。出力電圧の可変範囲内であってもOVP(過電圧保護機能)の動作電圧とのマージンが小さくなります。それによってノイズ等でOVPが頻繁に動作する可能性があります。