産業機器や事務機器から私たちの身の回りの電化製品、ゲーム機器、自動車、スマホ、携帯電話などのあらゆる分野でエレクトロニクス化が進んでいます。これらの電子機器が電気で動作している以上、周囲に電気的ノイズが発生するのは当然です。
また最近は電子部品(トランジスタ、IC、LSIなど)の動作電流も大きくなり高周波化したことで、ノイズの発生源である(EMI)と同時にノイズの影響も受けやすく(EMS)なっています。
身近な例ではTVの近くでパソコンを使っているとTVの画面にたまにノイズが入ったりすることがあります。ところが工場のロボットが他の装置のノイズで誤動作し暴走したり、駅で使う無線がノイズによって聞き取りにくくなったりすると人命に関わる事態になりかねません。
そのためIECがノイズに関する規格を制定し、各国がその規格に準じた規制をかけています。
ノイズの伝達経路
ノイズの伝わり方は電子機器のケーブルや基板のパターン上の物体を伝わる「伝導ノイズ」と空間を伝わる「放射ノイズ」の2通りがあります。
実際はケーブルやプリント基板を伝わるノイズが途中で空間に伝わり放射ノイズになったり、反対に空中を伝わる放射ノイズがケーブルや信号線に伝導ノイズとして伝わることもあります。伝導ノイズと放射ノイズが連結して伝わっていきます。
全くつながってない隣の機器から電磁波として放出されているノイズがケーブルに乗っている場合には、違った原因を犯人として間違えてしまうことも少なくありません。遠くに離れた機器のノイズが電源ラインと配電ラインを経由してノイズが伝わるとなると、周囲にそのノイズを出している機器が見当たらないことになります。このため「見えない」伝播ルートがあることも頭に入れてノイズ対策をしないといけません。
伝導ノイズ
伝導ノイズは「ディファレンシャルモードノイズ(ノーマルモードノイズ)」と「コモンモードノイズ」にわかれます。
ディファレンシャルモードノイズ
ディファレンシャル(ノーマル)モードノイズは「ラインーライン間を伝わる対称成分」と定義されていますが、意味はよくわかりません。電源の線路間で発生し、電源の電流や信号と同じ方向に流れるノイズ成分で、行きと帰りの向きが異なるため「ディファレンシャルモード」と呼ばれます。
ディファレンシャルモードノイズは比較的狭い装置の回路内を伝わることや、行きと帰りの電流の向きが逆のためノイズ成分が相殺され小さくなります。
「電源の電流や信号と同じ方向に流れるノイズ成分で、行きと帰りの向きが異なる」とはどういうことを言ってるのでしょうか?
上図を見ると電流と同じ方向に流れ行きは右向き→で、帰りは左向き←になっています。確かに行きと帰りの向きが異なっているというか、ループ上に伝って同じところに戻ってきますので行きと帰りの向きは逆になります。
このようにノイズの伝わる向きで分類しているのは理由があります。つまり逆にならない行きと帰りの向きが同じノイズがあるということです。
コモンモードノイズ
コモンモードノイズは行きと帰り?の向きが同じ右向き→になっています。ノイズ電流が流れる向きが共通なことからCommon modeと呼ばれます。
コモンモードノイズは「ラインーグランド間を伝わる非対称成分」と定義されています。コモンモードノイズは金属ケースなど、信号ラインと離れた箇所を通って戻ってきます。グランドプレーンなどを大きなノイズ電流ループを描くため、ノイズ電流が小さくても大きなノイズ放射が起きることがあります。
放射ノイズ
放射ノイズは「磁場(磁界)」「電場(電界)」そして両方を合わせた「電磁波」で空間を伝わります。
磁場(磁界)による伝達
導線Aに電流が流れているとすると中学で習った「右ねじの法則」により、同心円状の赤色の磁場(磁界)ができます。磁場の方向は手前では下から上へ向かいます。
次にこの磁場内にある導線Bは導線Aの磁場の影響を受けます。導線Bは赤色の磁場を”妨げようとする”反対方向の青色の磁場ができます。磁場の方向は手前では上から下へ向かいます。右ねじの法則によって青色の磁場は導線Bでは導線Aに流れる電流の向きと反対方向に電流が流れます。
こうして導線Aに電流が流すことで導線Aに磁場が発生し、その磁場を妨げる磁場が導線Bに発生しノイズ電流が伝わります。
ノイズの原因
電子機器・装置が誤動作した場合、その原因がノイズである可能性もあります。普通は商用AC電源、つまりコンセントから電源をとりますが、その場合入力系統からの影響③④とその系統につながった他のコンセントを利用した機器や装置からの影響①②があります。
- 他のコンセントの機器がON/OFFした時の誘導サージノイズ
- 他のコンセントの機器が発する高調波電流
- AC入力ラインに乗った静電気放電によるサージノイズ
- AC入力ラインに乗った電気的ショックの伝播
電子機器・装置には以上4つのノイズが考えられます。①②の他の電子機器からの誘導サージノイズや高調波電流については再現性があるので、その機器の入力プラグをコンセントから外してやれば、他にその電源系統につないでる機器や装置がなければ、そのノイズの原因がその機器かどうかは簡単にわかります。入力ラインからのノイズ③静電気放電④雷サージの場合は再現性が低いのモニターする(様子見)しかありません。
どちらにしても外部ノイズの影響でなく、電子機器・装置の不具合の可能性もあります。その場合は入力は「AC電源を使用しない環境」にしてみます。コンセントではなくUPS(無停電電源装置)や発電機からAC電源をとります。これで不具合現象が再現しないならACコンセントからのノイズの影響である可能性が高くなります。
気をつけないといけないのは特に発電機のAC電源の波形はきれいな正弦波でなかったり、電圧が141Vより大きく振れたりしますので、その影響も考慮する必要があります。
電源まわりのノイズ対策
本来は電子機器がノイズを出さないような設計をしないといけないのですが、そのノイズを受ける機器側にとってはノイズに影響されない対策も必要になってきます。
具体的には以下の3つの対策があり、簡単な方から説明します。
ノイズフィルタやノイズカットトランスを入れる
ACコンセントと電子機器の間に「ノイズフィルタ」を入れます。このノイズフィルタはACラインに乗ったサージノイズやコモンモードノイズをある程度減衰させるもので完全に除去するほどの効果はありません。ノイズは目に見えるものではないので「お守り」的に装置(電源)の前段にノイズフィルタを入れることもあります。
またノイズフィルタの代わりに「ノイズカットトランス」という電気的にトランスで分離してノイズを伝えないノイズ対策用トランスを使うのも非常に効果があります。
対策は簡単ですがデメリットとしては、ノイズフィルタやノイズカットトランスでノイズを減衰しても、そこから電子機器・装置までの経路上でノイズが混入する可能性があります。
インレット型ノイズフィルタを入れる
上の対策としてACケーブルを機器につなぎこむインレットにノイズフィルタを組み込んだ「インレット型ノイズフィルタ」です。ノイズフィルタと機器までの経路がありませんのでノイズ混入はありません。
デメリットは容量(アンペア数)は小さいものしかないことと比較的高価なことです。
外置きのACアダプターを使う
上の2つの方法では対策をしても結局、機器装置のケースの中までAC電源の配線が入り込みますので、機器内部の基板の電子回路の電圧レベル(+5V)に対してはAC100Vはノイズ対策にとってかなり厄介な存在になります。
それで電子機器・装置内にAC/DC電源を置くのではなく、外部に「ACアダプタ」というACの整流し電圧を落として平滑した程度の簡易型の直流電源を使う方法があります。パソコンをはじめ多くの電子機器はACアダプタを使っており、コンセントにはたくさんの黒いACアダプタが並ぶとういうのはよく見かける光景です。
ACアダプタを使うメリットは以下のものがあります。
- 中国や東南アジア製の安いACアダプタ
- 電子機器内にAC/DC電源がないので発熱が抑えられ小型化が可能
- 電子機器自体がDC入力になるのでPSE対象製品でなくなる。(ACアダプタはPSE対象製品)
- 電子機器のノイズ対策が楽になる。