納期はメーカー側の納期(リードタイム)とユーザーの希望納期があります。メーカーの納期は機種にもよりますが標準電圧(5/12/15/24V)は2週間程度からそれ以外の電圧や準標準品は2〜3ヶ月、特殊な機種は4ヶ月以上納期がかかるものもありました。最近では半導体をはじめとする電子部品の長納期化により、部品リードタイム半年、特殊なものは1年もあります。
数年前から電子部品メーカーのEOL(End Of Life 製造終了)が加速し、儲からない部品はどんどんやめていきました。産業用の電子部品は発注数量が少ない割に客先が品質に厳しいのがその理由だと思います。代替え品がある場合は(検証は必要ですが)まだいいのですが、他社に代替えがない場合は非常に厄介なことになります。スイッチング電源メーカーが購入している電子部品はカタログ標準品が多くメーカーがやめますと言えばどうすることもできません。購入する側が電子部品メーカーに手土産を持参してお願いに行くということは普通にあります。
さて、電源の納期のほとんどは部材の納期です。100Wの電源で約200点、300Wで数百点、1500Wとなると1000点の部品点数になります。部品納期も様々で長納期の部品(例えばトランス、IC、FETなど)は半年かかるものもあります。特にトランスの生産は人海戦術しかなく急な受注増には対応できません。最近では半導体のリードタイム300日というのも珍しくなくなりました。
電源は1点でも部品が足らないと生産できませんので、電源の納期=長納期部品の納期といっても過言ではありません。電源メーカーは受注してから部材発注していると間に合わないので、1年先までの発注予定数を部品メーカーに渡し3ヶ月先の発注数から発注数を確定していきます。過去1年くらいの売上実績数をベースに営業からの「まとまって受注になりそうな案件」をプラスしていくわけですがこれがほとんど当たりません。過去の実績をベースにしていますので、まるで「バックミラーだけを見て車を運転しているようなもの」です。
ユーザーの希望納期は数量が少ないものほど短納期で、数量がまとまるものほど比較的納期が長いです。数量がまとまる「量産品」は大手メーカーが生産計画を立てていますので、急に来週欲しいということはまずありません。それとは逆に中小零細企業はそもそも生産ロット数も少なく客先からの要求に短納期で無理してでも受注する傾向にあるので、電源の要求納期は短く2週間です。
そして部材が揃えば生産スタートするわけですが生産自体は数時間から1日あれば電源は完成します。納期が2ヶ月の電源でもそのほとんどが部材納期と輸送期間です。電源メーカーが生産効率化して何秒、何分短くなりましたと活動していますが、残念ながら納期面から言うとほとんど短縮効果はありません。
また、部材がすべて揃えばそれでいいのかと言うと生産ライン数の問題があります。生産ラインは急には増やせませんし2交代制を敷いても生産が倍になるわけではありません。一般的に電源メーカーは10%程度の受注増には何とか対応できますが、それを超えると納期遅れがほとんど全ての機種で発生します。電源メーカーは部品の共通化を進めていることが、部材の不足がほとんどの機種に及び納期遅れがほぼ全機種に及ぶことになります。
ユーザー側でも対応策として使う数以上に発注したり半年、1年先まで発注をかける会社も多いです。電源を取り扱う商社や販売店は納期対策のために数倍の発注数をかける、いわゆる「パニック発注」になり、それが逆効果になっています。というのは大量発注により電源メーカーの受注がますます増え→納期遅れ→さらに発注すると言う「納期遅れのスパイラル」に入っているからです。
電源メーカー側は大量の受注残のうち部材をどの電源の生産をにあてたらいいのか、本当に優先すべき機種は何なのかがわからないのです。それで販売店や商社に確認するのですが、その商社や客先との力関係、今までの売上と今後の見込みなどを考慮して営業が決めることになります。
最近では大手メーカーでも半導体不足による電源の以外の部品の納期遅れがあり、少し調整できる環境にはなっています。電源の納期は部材のなかでも長納期部品であることに変わりなく、また電源がないと装置がまったく動作しないこともあり、最後に電源を取り付けて出荷というわけにはいかないのです。