SWITCHING POWER SUPPLY KNOWLEDGE
家電製品には電源が内蔵されていますが、普段私たちが電源を目にすることはありません。ノートパソコンなどのACアダプターくらいが見たり触れたり出来る電源です。
ACアダプターと「スイッチング電源」とは回路方式が異なります。ACアダプターはコスト優先のために回路は簡易的なものですが、スイッチング電源は工場や病院・駅などで使う装置や機器に内蔵されるため、安定性・信頼性・長寿命が求められます。
スイッチング電源とは
最初に普段私たちが使っているノートパソコンを例にとって「電源」を説明します。ノートパソコンも電源は使っていて黒い「ACアダプター」と言えばわかると思います。
一方、パソコンの中には基板がありその基板上に半導体集積回路(IC)などの電子部品がたくさん搭載されています。スイッチング電源はそれら電子機器に内蔵されている電子部品にエネルギーを供給する重要な役目を担っています。
多くの電子部品は低圧の直流電圧(DC)で動作します。例えばマイクロプロセッサはDC3.3V以下で動作しますしLEDは12V、モーターやセンサーはDC12V、オペアンプは±12V、ドライバーICはDC5V、DC/DCコンバータはDC48Vなどで動作します。
交流電圧(AC)をそのまま電子部品にかけると電子部品が壊れてしまいますのでACアダプターやスイッチング電源などで低圧の直流電圧に変換することになります。
本来は半永久的に使えるバッテリーがあればいいのですが、そもそもそんなバッテリーはありませんし使えても半日程度です。どこでもパソコンに入力できる電源は?と言うとコンセントから電源をとるしかありません。それでコンセントの交流電圧(AC)を直流(DC)にする電源が必要になってくるわけです。
工場や研究所で使う装置や機器もパソコンと同じで内部にはモーターやリレー、ファン、電子部品などがあり全て直流電圧で動作します。装置や機器が安定した動作をするためには交流電圧が変動してもスイッチング電源は安定した直流電圧を装置側に供給しないといけません。それでスイッチング電源を「直流安定化電源」という言い方もします。同時に高信頼性(長寿命)と安全性(発煙発火しない)・耐環境性(低ノイズ)も求められるのです。
スイッチング電源とドロッパー電源
重くて大きいドロッパー電源
直流安定化電源はその回路方式によりドロッパー電源(リニア電源)とスイッチング電源に大別されます。ドロッパー電源は50年前には一般的な回路方式でしたが、その大きさと重さ、コストはスイッチング電源の5〜10倍も大きく重くなります 。例えばパソコンの300W程度の電源はトランスだけで数kgの重さになり実用的ではありません。
ドロッパー電源の回路方式は単純でトランスによって電圧を変換しています。スイッチング制御しないためスイッチングノイズは発生しませんので、現在ではノイズを嫌う計測・測定機器の限られた用途にのみ使われています。
スイッチング電源の歴史
NASA/アポロ16号
一方、スイッチング電源は約50年前にNASAが月にロケットを打ち上げる際に開発した小型軽量の電源です。アポロに電源を乗せるにはドロッパー電源では大きく重すぎたのです。スイッチング電源はトランジスタなどの半導体を高速スイッチング(ON/OFF)することで高周波パルスを作りその出力電圧を変換します。
大さっぱに言うと100Vを1/2 ONすると50Vになり、1/4 ONすると25Vになるということです。トランジスタがONしている間だけ電流が流れますので、電力消費が少なく効率がいいのです。ドロッパー電源の効率は40〜50%に対して現在のスイッチング電源の効率は80%弱からいいものだと95%にもなります。高速でスイッチングしますから大きいトランスも小さくできたのです。
ただし、スイッチング電源は高速でスイッチングするため、出力電圧にスイッチング周波数に合わせてスイッチングノイズが乗ってきます。コンデンサを出力端子につけたりしてノイズのヒゲの先はカット出来ますが全てをカットできるわけではありません。電源のノイズは電源自体や電源が搭載された装置の誤動作だけでなく他の装置や人体にも影響を及ぼすことがあるので各種安全規格や法令の規制を受けています。ほとんどの国では国際規格のIEC(国際電気標準会議)とCISPR(国際無線障害特別委員会)規格に準じたEMC規格が制定されています。例えば欧州のEN規格、米国のFCC規格、日本のJIS規格、ドイツのVDE規格などがあります。
スイッチング電源のノイズはドロッパー電源(シリーズ電源)の10倍程度の大きさです。金属板で電源を囲ったりノイズフィルターを入れたりして電源から発生したノイズを遮断・減衰させます。今でもドロッパー電源が医療機器や計測機器の一部に使われていますが、ノイズフィルターの性能が上がってきたこともあり、スイッチング電源とノイズフィルターの組み合わせで使われるのが一般的です。