スイッチング電源の出力
出力電力は出力電圧(V)と出力電流(A)をかけた値です。5V10Aの電源は50Wですし24V4Aの電源は96Wということです。
出力電力(W)=出力電圧(V)×出力電流(A)
普通は同じ定格出力電力(W)の電源は同じ容量なのですが、実は電源の周囲温度により流せる電流値(出力電力)は違ってきます。というのは周囲温度ごとに出力できる電力(電流値)が電源ごとに、もっと言えば出力電圧ごと、置き方ごとに決まっているのです。
定格出力電力に対する出力できる電力の割合を負荷率(ディレーティング率)といい、ディレーティング表はメーカーのカタログやHPに「仕様規格」または「取扱説明」で公開されています。なお、ここでいう「周囲温度」は室温ではなく装置内の電源の周囲温度のことで、室温+15℃と規定されていることが多いです。
負荷率(%)=出力電力(W)÷定格出力電力(W)×100
例えば100Wの電源AとBがあるとします。電源AもBも同じ100Wで24V4.2Aを出力することができます。電源Aのディレーティングは黒線のグラフ、電源Bは赤線のグラフで表しています。
周囲温度0〜40℃までは電源A,Bとも100%で使えますが、周囲温度50℃では電源Aが100%で使えるのに対し電源Bは80%、周囲温度60℃では電源Aは80%に対し電源Bは60%、周囲温度70℃では電源Aは60%まで使えるのに対し電源Bは使えません。
つまり、電源の周囲温度が50℃近くまでになる場合、電源Aはそのまま100Wの電源として使えますが電源Bは80Wの電源になるということです。電源Bは上の容量の150Wを使わないといけないことになります。
また、電源Bが電源Aより左へ10℃スライドしていますから電源Aより10℃温度が高いとも言えます。アレニウスの10℃2倍速の法則で考えると電源Bは電源Aの半分の寿命ということになります。実際は回路方式や使用部品など違いますので単純には言えませんが、ある程度の目安にはなります。
スイッチング電源の寿命
厳密に言えばスイッチング電源の寿命部品には「アルミ電解コンデンサ」と「ファン」以外に「フォトカプラ」「リレー」「ヒューズ」「はんだ接合部」の4つがあります。
フォトカプラは周囲温度やCTR(入力電流に対する出力電流の割合)により経年劣化し寿命がありますし、リレーも10万回入り切りすれば寿命です。
はんだ寿命はプリント基板と電子部品の熱膨張係数が異なるため、その接合部である「はんだ」にストレスがかかりリードの周りに円状のクラックが発生します。両面基板と片面基板と差がありますが数年レベルで発生する事はありません。症状は一時的な出力停止が多く、はんだクラック部も一部が繋がった状態です。振動を加えると出力したり停止したりします。しばらくその状態が続いた後、完全に出力停止します。一日に何回も電源を入り切りしたり、温度変動の大きい場所で起きやすい不具合です。
ガラス管ヒューズも銅線なので持つと言えば持つのでしょうが、規定以上の電流が流れた時に切れないといけないので一般的にはヒューズメーカーは10年を推奨交換時期としています。
電源には以上の寿命部品がありますが、一般的にはスイッチング電源の寿命部品はアルミ電解コンデンサが一番短い部品としています。 アルミ電解コンデンサは電解紙に電解液を含浸させリード線と共にケースに入れています。
アルミ電解コンデンサの寿命メカニズムは以下の通りです。
- アルミ電解コンデンサ内部の電解液が徐々に外部に蒸散
- 静電容量の減少、ESR(抵抗値)の増大
- 自己発熱による電解液膨張、蒸散スピード促進
- 電解液のドライアップ
- オープン状態
アルミ電解コンデンサの寿命は電解液が当初から20%減少した時と定義されています。電解液の容量は静電容量と言いμF単位で表記されます。電解液が20%低下しても電解コンデンサ単体のリップルが若干増える程度で電源に対してはほとんど影響がありません。使い続けると最終的にはドライアップしオープン故障し電源の出力が停止します。何%で電源の仕様規格を満足しなくなるのは電源により、電解コンデンサの場所により様々でわかりません。ただ20%減少してから加速度的に電解液が減少しますのでこの時期で交換するか電源を新品に交換します。
電解コンデンサの寿命は負荷率(ディレーティング率)と周囲温度によって決まります。電源には数本〜10数本の電解コンデンサが使われておりその中で一番寿命が短い電解コンデンサが電源の寿命が電源の寿命になります。また、電源の置き方などで一番短い電コンは変わることがあります。
そもそも電解コンデンサの寿命は電コンメーカーがL0値としてカタログ上に記載しています。一般的には105℃、5,000Hの保証が一般的です。「電解コンデンサのケース温度を105℃まで使用することができ、5,000時間保証します」という意味です。
5,000時間というと連続運転で半年程度しか寿命がありませんが、これはあくまで電解コンデンサのケース温度が105℃時で使用した時の寿命です。中にはL0=1万数千時間という長寿命品もありますが機種が少なく高価格で長納期なので標準品の搭載は難しいです。
基板温度は何も対策しなければ100℃まで上がることは珍しくなく、この温度をどう放熱し電解コンデンサや他の電子部品に影響がでない温度まで下げることが電源メーカーのノウハウになります。
普通70℃程度で電解コンデンサ(ケース温度)は使われますので、105℃から30℃温度が下がると寿命は2の3乗=8倍伸びます。つまり5,000時間は4万時間(4.5年)まで寿命が伸びることになります。
この電解コンデンサの寿命計算値はHP で公開しているメーカーもあれば、公開していないメーカーもあります。